大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和29年(う)1065号 判決 1954年7月29日

控訴人 被告人 統一郎こと三部東二郎 外一名

弁護人 竹上半三郎 外二名

検察官 小出文彦

主文

原判決を破棄する。

被告人三部東二郎を懲役一年六月に、被告人守屋慶治郎を懲役一年に処する。

被告人三部東二郎に対し原審における未決勾留日数中百八十日を右刑に算入する。

但し被告人両名に対し、本裁判確定の日からいずれも三年間右各刑の執行を猶予する。

訴訟費用中原審において国選弁護人長島吉之助に支給した分は被告人三部東二郎の負担とし、その余は被告人両名及び原審相被告人伊東正之三名の連帯負担とする。

理由

本件控訴の趣意は、末尾に添附する被告人三部東二郎弁護人竹上半三郎、同富沢準二郎名義及び被告人守屋慶治郎弁護人五井節蔵名義の各控訴趣意書に記載してあるとおりであるから、これに対し次のとおり判断する。

弁護人五井節蔵の控訴趣意第二点の(イ)について。

本件記録に徴すれば、昭和二十八年十二月一日の原審第七回公判期日に被告人三部の弁護人たる宮森弥之介が出頭しなかつたので、裁判所は刑事訴訟法第二百八十九条第二項により当日出頭していた被告人守屋の弁護人たる長島吉之助を三部の国選弁護人に選任した上当日の訴訟を進行したことを認め得る。元来弁護人において公判期日の変更を必要とする事由が生じたときは裁判所に対しその事由及びそれが継続する見込の期間を具体的に明らかにし、その疏明を附して期日の変更を請求しなければならないことは刑事訴訟規則第七十九条の四に規定されているところ、宮森弁護人は前記第七回公判期日前にその旨の請求をしていないことは記録上明らかである。しかも三部の原審における弁護人は宮森弁護人のみであつたから、右第七回公判期日において同弁護人の予期しない突然の欠席のため、裁判所は当日召喚により出頭した証人三名を取り調べその他の証拠調をなす等訴訟促進のためやむを得ず応急の措置として、当日被告人守屋の弁護人として在廷した弁護人長島吉之助を三部のため国選弁護人として選任したものであるといわねばならない。しかしてその選任については被告人三部を初めその他の被告人及び弁護人等に何らの意見、異議なく又その選任が右被告人等に対しその防禦権の行使を妨げ或は被告人の利益を害する虞があつたものと認むべき事状も記録上発見することを得ないから、原審裁判所の右選任は刑事訴訟規則第二十九条但書にいうやむを得ない場合に該当するものというべきであるから、同但書に規定するいわゆる隣接地方裁判所の管轄区域内にある(長島弁護士は東京第二弁護士会所属の弁護士であることは当裁判所に顕著である。)前記長島弁護士を選任したことは相当であつて、原審裁判所の訴訟手続には所論のような法令違反はない。論旨は理由がない。

(その他の判決理由は省略する。)

(裁判長判事 大塚今比古 判事 三宅富士郎 判事 河原徳治)

弁護人五井節蔵の控訴趣意

論旨第二点 (イ)原審では、第七回公判開廷の際被告人三部東二郎の私選弁護人森弥之介不出頭の為裁判所は、刑事訴訟法第二百八十九条第一項に基き、職権を以て在廷せる被告人守屋慶治郎の私選弁護人長島吉之助を、被告人三部東二郎の国選弁護人に選任して証拠調をなしたことは原審第七回公判調書の記載等(記録第二二八丁表)に徴し、寔に明らかである。然しながら、裁判長が職権を以て附すべき国選弁護人は裁判所々在地に弁護人がない時其の他止むを得ない事情がある時の外は当該事件の繋属する裁判所々在地の弁護人の中から選任するを要するのは、刑事訴訟規則第二十九条の規定上、かくことして、明々白々である。果して然らば横浜地方裁判所横須賀支部の所在地には許多弁護人のおるのは同裁判所支部に、顕著な事実であるばかりでなく、右長島弁護人を選任しなければならぬと目すべき止むを得ぬ事情は記録上一も存せず、否寧ろ、被告人三部東二郎は本件犯行を全然否認しているから、証人今井保之助、同今井長助、同川合高次に対する訊問は被告人三部東二郎の犯罪の成立を決する重大なる鎖鑰であつたのは、原判決が同被告人等の犯した判示(二)の詐欺の事実を、認定するに当り、其の証拠に採用せるに鑑みれば、極めて明白である。従つて、原審が東京地方裁判所々属弁護士である長島吉之助を被告人三部東二郎の国選弁護人に選任したのは、選任の手続を誤れると同時に同被告人の弁護権の行使を阻止したもので違法である。

(ロ) 被告人三部東二郎の私選弁護人森弥之介は原審が第九回竝に第十回の公判開廷の際には、其の都度出頭して審理に関与しているのは原審第九回、第十回の各公判調書の記載(記録第二六〇丁表二六六丁表)に照せば、明瞭である。而して、国選弁護人の選任は(イ)の叙上の場合に限る故、被告人三部東二郎が私選弁護人森弥之介を解任してはおらぬから、原審は、同私選弁護人の出廷した以上、国選弁護人長島吉之助を解任すべきであつたのに、これをなした形跡のないのは、一件記録上確知せらる。されば、原審は私選弁護人森弥之介と、国選弁護人長島吉之助立会の下に審理を遂げ、判決をなしたもので違法である。

左れば原判決の訴訟手続には、刑事訴訟法第三百七十九条に所謂法令の違反があり、該違反は判決に影響を及ぼすのは明らかなれば原判決は破棄するのが当然である。

(その他の控訴趣意は省略する。)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例